シャノンウインドの創成期を語る 山田哲也

塩ビ樹脂を使った新事業を模索し、樹脂サッシの開発に挑戦。1976年、日本初となる樹脂サッシ「シャノンウインド」が誕生した。

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「シャノンウインド」を開発したのは、サン・アロー化学(株)(現在は、(株)トクヤマに吸収合併)と言う会社で、塩化ビニル樹脂(以下、塩ビ樹脂)の製造事業を行っている会社でした。
そもそもの始まりは1966年頃のことです。当時の製造部長は、「塩ビは常に景気・不景気に左右される市況産業の代表的なもの。塩ビ製造だけやっていては食っていけない、塩ビの新たな製品分野を考えなければならない」と、塩ビ樹脂を多く消費し、付加価値の高い製品を模索していました。そして、その頃、アメリカのプラスチック専門誌に「Plastic Window」(樹脂サッシ)
という、初めて聞く言葉が頻繁に出ていました。当時の日本では、窓と言えばアルミサッシが主流。樹脂サッシなんて聞いたこともありませんでしたが、調べてみると材料が塩ビ樹脂だったのです。これが樹脂サッシとの最初の出会いであり、その後のシャノンウインドの開発へと繋がるものでした。

樹脂サッシの開発は、樹脂サッシの先進国であるドイツの技術をベースに進めていました。当時のプロジェクトチームのリーダーであった滝口武志氏からは、「思い通りには進まないことも多々あった」と聞いています。樹脂サッシのフレームは、成型金型を用い、樹脂を押出すことで形にしますが、形となった樹脂フレームは変形しやすく、設計通りに窓を組み立てることができなかったのです。何とか技術を確立しようと、高価であった押出し機械を新たに購入し、原料の配合も試行錯誤を繰り返しました。

そして1975年、樹脂サッシの試作品を完成させ、札幌市にある「北海道立寒地建築研究所」(以下、寒研)のクラブハウスと工務室にモニター品を設置しました。滝口武志氏は、「当時の日本では北海道を含む全国のほとんどの窓はアルミサッシが主流だった。樹脂はアルミに比べて約1/1000も熱が伝わらない素材なので、それを活かした樹脂サッシの優れた断熱性を極寒の北海道で評価してもらいたいと考えた」と話します。そして、その後に寒研の研究者の方の自宅にも採用されるほどの好評価を受けました。

翌年の1976年、「寒地住宅研究会」により北海道での理想的なモデルハウスを建てようと、札幌市内にモデルハウスが建築され、そこに樹脂サッシ「シャノンウインド」が初めて採用されました。これが日本初の樹脂サッシ「シャノンウインド」が誕生した時でした。
モデルハウスでは様々なデータが取られ、室内外の温度差・窓の結露など、「シャノンウインド」の気密性・断熱性の良さが本格的に裏づけされました。

北海道を拠点として、樹脂サッシの気密・断熱性能を啓発。寒住法適用を求めて、北海道庁に何度も掛け合った。

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1976年に誕生した樹脂サッシ「シャノンウインド」。寒冷地である北海道で普及を目指し、啓発活動を進めました。しかし、決して順風満帆なスタートではありませんでした。当時は樹脂と言えば、洗面器やバケツといった安いプラスチックを連想させ、壊れやすいイメージがあったからです。それに加え、製品のラインナップの少なさ、高価格、納期が長い(当時は山口県から北海道へ運んでいた)などの問題により市場に受け入れられるのは難しいことでした。

そして、何より必要だったのが「北海道防寒住宅建設等促進法(以下、寒住法)」の適用でした。当時の北海道は、寒住法により、窓は二重窓でなくてはならないと定められていました。当時主流のアルミサッシでは、極寒の北海道を過ごすためには窓を二重にする必要があったからです。私たちは、北海道庁に通い、樹脂サッシ「シャノンウインド」がアルミサッシの二重窓と比べ、同等以上の断熱性能であることを認めてもらいたかったのです。

今でこそ断熱性能は、試験や計算などで数値化できますが、当時は公に方法が定まっていませんでした。寒研から指導を受けながら、樹脂フレームとガラスの断熱性能値を個別に算出し、窓を構成する面積比で全体の性能値を計算。樹脂サッシ「シャノンウインド」の断熱性能を証明しました。そして1978年、建設大臣の認定により、樹脂サッシ「シャノンウインド」であれば、窓を二重にしなくても寒住法の適用が認められることになりました。

「優良住宅部品」の認定などで社会的認知が向上。樹脂サッシ「シャノンウインド」は多くの技術ノウハウを蓄積し全国へ。

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上市直後は、山口県にある徳山曹達(株)(現(株)トクヤマ)内で製造して北海道へ供給していました。その当時は、納期も物流費も随分かかっていたと記憶しています。そんな中、道内に短納期で供給可能とするために、1980年、北海道夕張郡栗山町に日本初となる樹脂サッシの組立工場を設立しました。また、製品ラインナップとしては、当初は外開き窓(単窓)とFIX窓から始まった品種も、テラスドアや突き出し窓、外開き窓(連窓)を追加、多品種化などによりお客様のニーズに対応してまいりました。

需要が高まる一方で、製品の品質については課題も浮上してきました。例えば、樹脂フレームの形材が膨れてしまったことがありました。これは、気温が上昇すると形材の中に閉じ込められた空気が膨張し、膨張した空気により形材が内側から押され、形材に膨れが発生してしまうものです。こうした課題を解決しながら技術力を高め、北海道から始まった樹脂サッシ「シャノンウインド」は、全国に波及していきました。

今では、北海道の住宅のほとんどで樹脂サッシが採用されています。私たちが樹脂サッシの開発に成功し、啓発してきたことが認められたと大変嬉しく思っています。本州以西の住宅では、残念ながらまだまだ樹脂サッシのシェアは低い現況です。
樹脂サッシは、決して北海道だけで有効な窓ではありません。省エネルギーだけでなく、快適な室内環境にも寄与する樹脂サッシは、今後、急速に市場の認知が強まり、本州でも当たり前に使われる日はそう遠くないと信じています。

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